2018.10.12

本をひらく楽しみ

久しぶりに須賀敦子を開く。書棚から抜き取ったその本は『時のかけらたち』。ページを手繰り目を落とした、最初の一言「一九五四年の春だった。」。あー、須賀敦子だ。この一言で、あっという間に須賀敦子の世界に引き込まれる。まるで心地よい香りに包まれたかのように、胸がおどる。目の前で語りかけられているかのような、陶酔感。そのまま本を閉じてしまい、じんわりと余韻に浸りたいような気分にさせてくれる。本を読む方なら分かるでしょうか、この感覚。何がそうさせるのか。誰もが使いそうな言葉なのに、なぜかその言葉に、書く者の独特ともいえる世界を感じてしまう。私もいつか、こんな風に言葉を使えるようになれるだろうか。